【インタビュー】ヨコハマホステルビレッジ 岡部友彦(前編)

寿町で「ヨコハマホステルビレッジ」が始まって3年が経過しました。『寿町のドヤ街をゲストハウス村に』と始められたこのプロジェクトも次第に街に根付き、今日、国内や海外から多くの宿泊者が寿町を訪れています。 そのヨコハマホステルビレッジを運営する一人が、コトラボ合同会社の代表 岡部友彦さんです。3年を迎えたヨコハマホステルビレッジはどのように始まり、どこへ向かってゆくのでしょうか。

コトラボ合同会社 代表 岡部友彦さん


「ヨコハマホステルビレッジ」その始まりと展開


――ヨコハマホステルビレッジの活動のきっかけをお聞かせください。

岡部:活動を始める前に、私は大学院で建築・都市論を専攻していました。建築といっても物質的な「モノ」のデザインだけではなく、都市をひとつの生命体と捉えて、都市での様々な活動を可視化させるといったことを研究していたんです。 きっかけとしては、寿町で活動しているNPO法人「さなぎ達」との出会いもありますが、まず、都市論的なイメージがありました。200メートル四方というスケールも面白いし、特異性がある町だなと。また、街にずっといることで見えてくるものもありました。人口の95%が単身の男性だとか、宿が3畳の部屋ばかりで構成されていて、さらに宿の空室が2000室もあるとか…。そういうものをうまく使えないかということでホステル事業をやり始めたんです。


――アイデアをどのように具体化していったのか、そのプロセスをお聞かせください。

岡部:ある程度考えたら一歩踏み出すということが必要だと思います。しかし、それがいつまで経ってもボランティアであってはいけないと考えます。活動を存続させるための経済的なサイクルは重要視しました。私たちには大きな資金があるわけではありませんから、この活動にはホステルのプロモーションやその手続きという形で協力していて、ハード部分の全面改修は全部オーナーさんがやっています。 活動の中で一番初めに作ったのはホームページなんですよ。まずはホステルの予約の部分だけを作って、少しずつ人が来るようになりました。初めはフロントもなかったんですが、フロントの改修にも費用はほとんどかけていません。建築の学生と一緒に、実体験のプログラムとして、壁や天井の大工仕事を1ヶ月でやったんです。

フロントの一部。傾斜しパンフレットが置きやすいデザイン



――建築・都市論を専門としながらホステル事業を立ち上げるというのは、これまでの建築界の常識からすれば異色に見えますね。

岡部:ハードだけではなくてソフトも見ていこうということで、会社に「コトラボ」という名前を付けたんです。物事をモノとコトに分けると、モノづくりが建築だと見られますが、コトづくりがなかったらモノづくりもできないと思うんです。スペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館は造形的にもすごい建築といえるかもしれませんが、この美術館が偉大なのは、それで人の流れが生まれ、街が活性化していたことにあると思います。建築の力は、人の流れをデザインするとか、人の渦を作っていくとか、そういうところにも重要性を持つんじゃないかと思ってます。 例えば、街道の脇に海があって、そこで捕れた魚を、街道に仮設の市を建てて売っていたとしますよね。それが続いていくと常設の市になって、従業員を雇って、周辺に従業員の家が建っていく。そして今度は従業員向けの違うビジネスができていく。そうすると村みたいになっていく。この流れ、循環自体が村や町の生態系みたいな感じだと思うんですね。こうしたことが私のやりたいことでもありますが、建築という言葉の中に、このプロセスのデザインまで含めていいんじゃないかなと思っています。


――「じゃらん」などのウェブサイトを見ると、寿町の中でも同様の形でホステルが始められているのが分かります。競合という考え方はありませんか。

岡部:秋葉原って、あんなにたくさん電気屋があるのに競合して潰れませんよね。もちろん中にはあるのでしょうが、相乗効果になっているんですよ。寿町もそうなっていくのが理想的ですね。街として宿屋街のイメージがつけば、結果的にそれは街の新しいイメージづくりに繋がると思います。競合というより、一緒にやっていくという肯定的な見方です。


――今月(2008年7月)、水明荘の改装オープンがありましたが、今後、ホステルを増やしていく予定はありますか。

岡部:街の方向やニーズと一致して、初めてホステルを増やすことができると思っています。無理矢理増やせば街の生態系が崩れますからね、あくまで受身的な感じですね。


――寿町は労働者の町から、高齢者・福祉の町へとシフトしていると聞きます。そのような街の変化をどう捉えていますか。

岡部:街の人たちの年齢だけでなく、街自体も青年期から壮年期に変わったといえるのかもしれません。それは受け入れざるをえませんが、そこにホステル以外 の「医衣職食住」の点からアプローチしているのが、NPO法人「さなぎ達」なんです。4年前に「ポーラのクリニック」を開設して街の人たちをケアしたり、 孤独死を防止する「寿みまもりネットワーク」などの活動を行っています。私は、ここで行っているジョブトレーニングについてさらに拡張していく必要がある と思っています。現在、ファーストステップとして、街の中で街の同世代の人に対して仕事をしています。その次のステップとして、多世代の交流ができるような職環境を街の外で提供する必要があると思います。それによって、新たなやりがいや生きがいをつくっていければと考えています。


前編 後編


岡部友彦 ロングインタビュー

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・関連情報:
YOKOHAMA HOSTEL VILLAGE
NPO法人さなぎ達
じゃらんnet


[ posted by ida-10 ]